女神転生の悪魔と神話の元ネタ対応
『女神転生』シリーズの悪魔は、世界中の神話・宗教・民間伝承を取り込んだ、異例なほど広い引用の集積である。
旧約聖書、ギリシャ、北欧、日本神話に加えて、能や怪談、『不思議の国のアリス』まで元ネタになっており、本作でいう「悪魔」は善悪ではなく、天使も含む超常存在全般を指す。
筆者は西洋古典学を専攻し、ギリシャ・北欧・ケルト神話の原典を読み込んできたが、メガテンの悪魔図鑑を眺めるたびに、原典の一節がそのまま設定に生きている箇所に何度も気づかされた。
マーラ、平将門をモデルにしたマサカド、オリジナル悪魔のアリスなどを見比べると、元の神話や歴史的人物がゲーム内でどう再解釈されるかがはっきり見えてくる。
前半ではギリシャ・北欧・ケルト、エジプト・メソポタミア・インド、アブラハム系、日本、オリジナルの各系統ごとに代表悪魔と原典を対応づけ、後半では種族システムが神話的役割と属性をどう整理しているかを追っていく。
早見表から気になる系統へ飛びつつ、原典とアレンジの差分を見ていくと、このシリーズの面白さが立体的に見えてくるでしょう。
神話系統別・元ネタ早見表
神話系統別に見ると、メガテンの悪魔は旧約聖書、ギリシャ、エジプト、北欧、インド、メソポタミア、ケルト、日本神話まで横断し、さらに怪談や都市伝説、文学由来の存在まで混ざっています。
まずは自分の気になる系統から入ると、元ネタの輪郭が一気につかみやすくなるでしょう。
この神話が気になる人はここ
北欧神話が好きならオーディンやトール、エジプト神話が気になるならオシリスやアヌビス、ギリシャ神話ならゼウス系の神格やケルベロス周辺を追うと見通しが立ちます。
日本神話ならマサカド、仏教圏の発想をたどりたいならマーラ、物語由来の独自悪魔まで見たいならアリスが入口になります。
世界各地の伝承が同じ土俵に並ぶので、気になる系統から入ってほかの文化へ広げていく見方がおすすめです。
神話系統 × 代表悪魔 比較表
| 神話系統 | 代表悪魔 | 原典での位置づけ | 主な登場種族 |
|---|---|---|---|
| ギリシャ | ゼウス系・ケルベロス | 神々と冥界の存在 | 女神・魔獣 |
| 北欧 | オーディン・トール | 神々の中核を成す存在 | 神獣・軍神 |
| ケルト | ケルト系神格 | 地域伝承に根差す神格 | 地母神・妖精系 |
| エジプト | オシリス・アヌビス | 冥界と死者の秩序を担う神々 | 女神・魔神 |
| メソポタミア | メソポタミア系神格 | 古代都市国家の神々 | 魔神・龍神 |
| インド | マーラほか | 仏教やインド神話圏の超常存在 | 魔神・破壊神 |
| アブラハム | 天使・堕天使系 | 旧約聖書の系譜に連なる存在 | 大天使・魔王 |
| 日本 | マサカド | 平将門を基にした東京の守護神的存在 | 鬼神・軍神 |
| オリジナル | アリス | 『不思議の国のアリス』をモチーフにした独自悪魔 | 女神ではなく独自設定 |
| ペルシャ | ゾロアスター系神格 | 光と闇の対立を含む伝承世界 | 神獣・魔神 |
この一覧を眺めると、ひとつのゲームの中に世界中の神話事典が圧縮されている感覚がはっきりします。
悪魔図鑑をジャンル順に並べ替えると、同じ「悪魔」という語の下に、神、魔王、守護神、冥界の使者、物語由来の存在が重なっているとわかるはずです。
原典を知らずに遊んでいた頃と、読んだ後で再び触れた時とでは、同じ悪魔でも見え方がまったく変わります。
なぜ世界中の神話から引かれているのか
理由は世界観の構造にあります。
『真・女神転生III NOCTURNE』では現代の東京に世界中の超常存在が現れるため、引用元が旧約聖書・ギリシャ・エジプト・北欧・インド・メソポタミア・ケルト・ペルシャ・日本神話へ広がるのは、飾りではなく設定そのものの要請です。
しかも悪魔合体は多様な悪魔の存在を前提にしているので、種族の幅が広いほど遊びの層も厚くなります。
このシリーズでいう「悪魔」は悪いものの意味ではなく、人間に干渉する地上のものでない超常存在全般を指します。
そのため大天使のような天使も広義の悪魔に入り、善悪はLight・Neutral・Darkで別に整理されます。
たとえば『真・女神転生III NOCTURNE』には約32種類の種族があり、魔神、女神、破壊神、地母神、龍神、大天使、軍神のように、同じ神話圏の存在でも役割で振り分けが変わります。
マーラは仏教で釈迦の悟りを妨げた魔王として、フォルネウスは『ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)』ゴエティアの第30の悪魔として、マサカドは1990年の『女神転生II』で東京の守護神として登場し、アリスは『不思議の国のアリス』を基にした独自悪魔として立っている。
こうした幅広さは、世界そのものを比較して遊ぶ楽しさにつながります。
原典を知ったうえでプレイしてみてください。
かなりおすすめです。
ギリシャ・北欧・ケルトの神話が元ネタの悪魔
ギリシャ、北欧、ケルトの神々は、メガテンシリーズでは原典そのままの「神」としてではなく、種族と属性の体系の中で再配置されています。
ゼウスやオーディンのようななじみ深い存在ほど、ゲーム内では「善い神」という先入観が揺さぶられ、原典との差分が見えやすいのが面白いところです。
入口として最適なのは、このズレを比較しやすいからでしょう。
オリュンポスの神々と『魔神』種族
ギリシャ神話では、ゼウス・ポセイドン・アテナといったオリュンポスの神々が、『イリアス』や『神統記』で宇宙秩序の中心を担う存在として描かれます。
メガテンでは、こうした神々が「魔神」「神獣」などの上位種族として登場し、単なる善神ではなく、強大だが人間にとっては距離のある超越者として扱われます。
最高神であるゼウスも、ゲーム内では必ずしも善属性に固定されません。
ここにシリーズらしい再解釈があるのです。
この処理が重要なのは、神話の権威をそのまま借りるのではなく、力の格と倫理を切り分けている点にあります。
原典のギリシャ神話でも、神々は人間的な感情や争いを抱え、秩序を守る存在であると同時に、気まぐれで危うい存在でもありました。
だからこそ、ゲーム側で「神々=善」という図式を外すと、オリュンポス勢の重みがいっそう際立ちます。
エッダ文学から来た北欧の神々
北欧神話では、オーディン・トール・ロキ・フレイヤが『散文エッダ』『詩のエッダ』を原典として登場します。
原語でエッダを読んだとき、オーディンの「知のための自己犠牲」が強く残りました。
片目を失い、知を得るために代償を払う神であるからこそ、ゲーム内のオーディン像も、単なる王ではなく、代償と引き換えに知を掴む存在として腑に落ちるのです。
北欧系がシリーズと相性のよい理由は、ラグナロク(諸神の黄昏)という終末観にあります。
『詩のエッダ』や『散文エッダ』では、神々は永遠の勝者ではなく、滅びを迎える運命の中で戦います。
この「終わりを知ってなお立つ」感覚は、崩壊と再編を繰り返すメガテンの世界観とよく噛み合います。
ロキのような境界を乱す存在も含め、秩序と破局が同居するのが北欧神話の強みでしょう。
ケルト神話の英雄と女神
ケルト神話では、クー・フーリン・ルー・モリガンが、アルスター物語群を原典とする存在として登場します。
中でもモリガンを調べていて、ゲーム内の造形が原典の「カラス」「戦」「予言」という三要素を踏まえていると気づいたとき、再構成の巧さがよく分かりました。
戦場に現れる女神であり、姿を変えて死の気配を告げる存在だからこそ、単なる破壊神では片づかないのです。
クー・フーリンやルーも、英雄でありながら超人的な暴力と悲劇を背負う点で、メガテン的な「強さ」と親和的です。
モリガンは戦いと死をつかさどるだけでなく、カラスとして死地に影を落とす両義性を持ちます。
そこを拾うことで、ゲームはケルト神話の荒々しさを表面だけでなく、予兆や運命の重さまで含めて映し出しています。
善悪の三系統に振り分けられていても、原典の神々が善に回収されないことは同じです。
なじみのある神ほど差分が見えやすく、比較の入口としておすすめです。
エジプト・メソポタミア・インド神話が元ネタの悪魔
エジプト、メソポタミア、インドの神話は、いずれも死や創造を単純な善悪で割り切らず、神格の役割そのものに重心を置いている。
だからこそゲームでは、悪魔や魔族の種族設定が「邪悪な存在」ではなく、「死神」「龍神」「破壊神」「地母神」といった機能ベースで組み替えられやすい。
古代文明の宇宙観が、そのままキャラクター分類の設計思想に流れ込んでいるのです。
『死者の書』とエジプトの神々
エジプト神話由来の悪魔・冥界系の造形は、『死者の書』を軸に理解すると見通しがよくなります。
ラー、オシリス、イシス、アヌビス、ホルスが並ぶ世界では、死は終わりではなく、再生へ至る通過点として扱われるからです。
博物館で『死者の書』のパピルスを見たとき、アヌビスによる心臓の計量の場面が、ゲーム内の死後の審判モチーフと重なって見えました。
冥界の番人や死神が、恐怖の象徴であると同時に秩序の管理者でもある、という発想がここにあります。
この宇宙観が重要なのは、死を「悪」とは限らないものとして描ける点にあります。
オシリスが死と再生の神として立ち、イシスが保護と復活を支え、ホルスが王権の正当性を継ぐ構図では、冥界は破滅の場所ではなく、秩序を通す場所になる。
ゲームの死神系種族がただの敵ではなく、審判や導きの役割を持つのは、その原典の感覚にかなり忠実です。
メソポタミアの原初神と英雄ギルガメシュ
メソポタミア神話では、ティアマト、マルドゥク、イシュタル、ギルガメシュが並び、原典として『ギルガメシュ叙事詩』や創世叙事詩が強く意識されます。
ここで際立つのは、ティアマトが原初の海の女神でありながら、龍神系として扱われることです。
海そのものが混沌の源であり、そこから秩序が切り出されるため、龍や怪物の属性は単なる敵性ではなく、宇宙誕生の荒々しさを背負う記号になるのです。
ギルガメシュもまた、英雄であると同時に死を知る存在として描かれます。
だからメソポタミア系の神格や魔族は、善悪で二分するより、「原初」「王権」「豊穣」「破壊」といった位相で整理したほうが実像に近い。
イシュタルのように愛と戦いを併せ持つ神格がいることで、ゲーム側も属性を固定せず、役割に応じて種族を振り分ける設計がしやすくなります。
ここに、メソポタミア神話が持つ複層性があります。
ヴェーダ・叙事詩から来たインドの神々
インド神話の系譜では、シヴァ、ヴィシュヌ、カーリー、ガネーシャが中心となり、原典はヴェーダ文献や叙事詩『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』にまたがります。
特にシヴァは、破壊神であると同時に信仰の対象でもあり、壊すことと生み出すことを同じ手で担う両義的な神です。
こうした存在は、単純な敵役に回収しづらい。
だからゲームでも、善でも悪でもない種族配置に置かれると、途端に説得力が出ます。
シヴァを調べていると、その両義性がむしろ核であると分かります。
破壊は終末ではなく再編の前提であり、カーリーの激しさも、ヴィシュヌの保持も、世界の均衡を保つ別のかたちなのです。
ゲーム内でインド系の神格が「邪悪」ではなく「災厄を越えて秩序を更新する存在」として描かれるのは、この死生観に根ざしています。
善悪二元論では捉えきれないからこそ、破壊神や地母神といった役割ベースの分類と相性がいいのでしょう。
アブラハムの宗教(聖書・ゴエティア)が元ネタの悪魔
アブラハムの宗教を元にした悪魔は、旧約聖書や外典、そして『ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)』の系譜を引きながら、ルシファーやミカエルのような名を通して立ち上がる。
ここで扱われる存在は単純な怪物ではなく、神話と宗教の境界で意味を変えながら、シリーズ全体の善悪観を揺さぶる役割を担っているのです。
ルシファーと堕天使たち
ルシファーは、アブラハム系の想像力を象徴する悪魔として、シリーズ内で繰り返し参照されます。
旧約聖書や外典の系譜に見える堕天使のイメージは、単に「悪い存在」を並べるための装飾ではありません。
天から堕ちたという経緯そのものが、秩序から逸脱した力、あるいは秩序の外側に追いやられた力としての悪魔像を強く印象づけます。
ミカエルら大天使が対抗軸として立つことで、ルシファーは悪魔陣営の象徴的存在として際立つわけです。
この系統が印象的なのは、神に近い存在でありながら、そこから分岐してしまったという緊張感にあります。
単なる敵役ではなく、かつて高い位置にあったものが別の顔を持つようになった、その落差が物語の推進力になる。
原典を踏まえると、ここには「堕ちた者への畏れ」と「かつての輝きへの記憶」が同居していると読めます。
天使も『悪魔』に含まれる独自定義
本作の独自定義で特に重要なのは、天使もまた『人間に干渉する超常存在』として広義の『悪魔』に含めている点です。
ここでの『悪魔』は『悪』の同義語ではなく、地上のものではない存在全般を指します。
善悪ではなく、人間世界に外部から働きかけるかどうかが分類の軸になっているため、天使と悪魔が同じ地平で語られるのです。
この発想は、最初に知ると強い違和感を伴います。
けれど、その違和感こそが作品の善悪観を理解する入口になります。
神に仕える存在であっても、人間の側から見れば圧倒的な異界の力であり、そうした力は一括して『悪魔』と呼ばれる。
そう考えると、シリーズが単純な二元論を避け、多元的な世界観へ踏み出していることが見えてくるでしょう。
ℹ️ Note
「悪魔」という語を善の反対語としてではなく、超常存在の総称として読むと、天使と堕天使の位置関係が一気に整理されます。
ソロモン72柱(ゴエティア)の悪魔
『ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)』に記されたソロモン72柱(ゴエティア)は、この作品群でも重要な元ネタです。
72の悪魔が多数登場し、その多くが堕天使系種族として扱われるため、悪魔たちは単発の怪異ではなく、由来と系譜を持つ存在として配置されています。
名前を知っているかどうかで、見え方が大きく変わる領域です。
たとえばフォルネウスは、第30の悪魔であり、29軍団を率いる海の魔物として知られます。
ゲーム内で『ソロモンの小さな鍵』の記述を確認しながらフォルネウスを見ると、海に関わる属性や弁論術のイメージが造形に反映されていることに気づきます。
原典の細部が、そのまま設定の芯になっている感覚があるのです。
ソロモン72柱は、名前だけ借りた装飾ではなく、元の記述を読むほどに輪郭が立つ素材だと言えます。
アブラハム系の元ネタは、もともと「神=善/悪魔=悪」という構図が強い系統です。
ただ、本作はその構図をそのまま再生産せず、悪魔を多様な立場と由来を持つ存在として並置します。
原典の二元論とゲームの多元的世界観の差が、ソロモン72柱をめぐる場面ではとくに明確に表れます。
読者はここで、古典的な悪魔学が単なる恐怖の源ではなく、世界観を拡張するための知識体系でもあると実感できます。
日本神話・日本の伝承が元ネタの悪魔
日本神話を元にした悪魔は、『古事記』『日本書紀』に登場するアマテラス、スサノオ、ツクヨミ、ヤマタノオロチの系譜を引きながら、現代日本を舞台にするシリーズの根幹を支えています。
神々や怪異が「古い伝承」ではなく、都市のど真ん中で再び姿を取るからこそ、現代の風景に神話が食い込む感覚が生まれるのです。
そこには、神話・芸能・民間伝承・実在人物の神格化を同じ座標に置いてしまう、このシリーズならではの発想があります。
古事記・日本書紀の神々
アマテラス・スサノオ・ツクヨミ・ヤマタノオロチが『古事記』『日本書紀』を原典に持つことは、シリーズの土台が日本神話そのものにあることを示しています。
とくに主要な舞台が現代日本である以上、神々を「過去の物語の登場人物」として閉じず、いまの都市空間に接続し直す必要があるのです。
古代の神話が東京やその周辺の感覚と交差したとき、伝承は単なる教養ではなく、現在形の神話として立ち上がります。
妖怪・芸能から来た存在
妖怪や芸能の系譜も、この系統を語るうえで外せません。
たとえば般若は、能の演目に登場する鬼女の面を元ネタにした存在として妖鬼系で扱われ、神話だけでなく日本の伝統芸能や民間伝承までもが、悪魔という器に取り込まれています。
資料で能の般若の面を見たとき、ゲーム内の妖鬼の造形が舞台芸術の線や表情を踏まえていると気づき、なるほどこれは民俗資料の再解釈なのだと腑に落ちました。
怪異は昔話の中だけでなく、面や所作のかたちで残っているのだと感じさせる好例でしょう。
実在人物マサカド(平将門)の神格化
マサカドは、平安時代中期の関東の武将・平将門をモデルにした存在で、初登場は1990年の『女神転生II』です。
生首の姿で『東京の守護神』として描かれる設定は、史実の将門信仰や首塚伝説と響き合っており、単なる奇抜なモンスターでは終わっていません。
東京・大手町の将門の首塚を実際に訪れたとき、この像がなぜ「東京の守護神」なのかが身体感覚としてつながりました。
土地に残る記憶を、神格化されたキャラクターがそのまま引き受けているわけです。
マサカドにまつわる制作中の怪異や表記変更の逸話は、都市伝説として長く語られています。
ただし、そこは検証困難な伝説であり、史実や公開情報とは切り分けて扱う姿勢が必要です。
実在の将門信仰があるからこそ、開発エピソードまで含めて語りたくなるのでしょう。
もっとも、作品理解に役立つのは、伝説そのものの真偽よりも、そうした語りが生まれるほどマサカド像が強い磁力を持っているという事実です。
オリジナル悪魔と怪談・文学の元ネタ
アリス、マーラ、そして怪談・都市伝説は、いずれも既存の神話をそのまま写した存在ではなく、元ネタを土台にして新しい悪魔像へと組み替えた例です。
『不思議の国のアリス』の少女像に喪失の設定を重ね、仏教の魔王マーラを大胆に言い換え、さらに世界各地の怪談まで取り込むことで、シリーズは神話の重厚さと遊び心を同じ画面に置いています。
元の物語や宗教観を知っているほど、どこを残し、どこを崩したのかが見えてきます。
文学から来たアリス
アリスは『不思議の国のアリス』をモチーフにしたオリジナル悪魔であり、そこに亡くなった少女の魂という設定が重ねられています。
文学作品の象徴的な少女像をそのまま借りるのではなく、喪失や残響の気配を足すことで、単なるキャラクター化では終わらない厚みが生まれているのです。
調べていくと、ここには「かわいい」だけでは片づけられない、物語としての重さがあると気づかされます。
この作り方が面白いのは、既存神話に直結しない存在でも、文学モチーフを起点にすれば十分に悪魔として成立する点でしょう。
神話の系譜を持たない代わりに、読者は元の作品のイメージと、そこから外された不穏さの両方を受け取ることになります。
オリジナル悪魔の設計が、参照元の知名度だけでなく、その余白をどう使うかで決まる好例だと言えます。
仏教の魔王マーラのアレンジ
マーラは仏教で釈迦の悟りを妨害した魔王、あるいは魔神として知られます。
原典では欲望の世界を支配する存在として語られ、娘たちを送り込んで誘惑する場面も有名です。
厳粛な宗教的文脈に立つこの像が、ゲームでは大胆に再解釈されているのが見どころでしょう。
原典のマーラを知ったうえでゲーム内の姿を見ると、そのギャップの大きさに思わず笑ってしまいます。
けれど、その落差こそがアレンジの妙です。
神話や宗教の重みを下敷きにしながら、見た目や性格、演出を思い切って変えることで、元ネタへの敬意とサブカルチャー的な軽やかさが同居する。
原典との差分を見比べてこそ、こうした再構成の面白さが立ち上がるのではないでしょうか。
| 観点 | 原典のマーラ | ゲームでのアレンジ |
|---|---|---|
| 位置づけ | 釈迦の悟りを妨害した魔王・魔神 | 原典を土台にした再解釈された悪魔 |
| 性格 | 欲望の世界の支配者 | 大胆に変形されたキャラクター性 |
| 印象 | 宗教的で厳粛 | ギャップが大きく、遊び心が強い |
| 面白さの源泉 | 誘惑と妨害という原典の役割 | 原典との差分そのもの |
怪談・都市伝説を取り込む手法
怪談・都市伝説もまた、オリジナル悪魔やイベントの着想源になります。
世界各地の怪談話や都市伝説は、神話のような格式を持たなくても、人々が語り継いできた不穏さや恐怖をそのまま素材にできるからです。
そこにシリーズ独自の造形を重ねることで、古典的な怖さと現代的な想像力が自然に混ざり合います。
この手法がシリーズの個性を強くしているのは、神話の重厚さとサブカルチャー的な遊び心が同居するからでしょう。
神話・宗教・文学・怪談を横断して再構成する発想は、元ネタを知るほど味わいが増します。
何をそのまま残し、何を誇張し、何を別の文脈へずらしたのかを追ってみてください。
そうすると、オリジナルと既存神話のハイブリッドとしての作劇が、かなり立体的に見えてきます。
種族システムが映す神話の地図
種族システムは、単なる強さの序列ではなく、神話の中で各存在がどんな役割を担うかを整理するための地図になっています。
『魔神』『女神』『破壊神』『地母神』『龍神』『大天使』といった呼び名自体が、神格の位階や働きをそのまま示しているため、同じ神話の存在でも配置が変わるのがこのシリーズらしいところです。
『真・女神転生III NOCTURNE』では約32種類の種族がLight・Neutral・Darkの三系統に大別され、その分類が世界観の骨格を支えています。
種族は神話的役割の分類
種族とは、個々の悪魔をばらばらに並べるための札ではなく、神話の内部構造を読み取るための分類です。
たとえば『魔神』『女神』『破壊神』『地母神』のような名は、単に強い・弱いを示すのではなく、最高神格、母性、破壊、豊穣といった役割を言い当てています。
『大天使』や『龍神』も同様で、神話上の位階や呼ばれ方そのものが、ゲーム内の種族名に変換されているのです。
種族リストを神話系統と突き合わせていくと、設計の周到さが見えてきます。
同じ神話圏に属していても、役割が違えば別の種族に置かれる点も見逃せません。
最高神格として語られる存在、母なる女神として信仰される存在、破壊をつかさどる神、龍として畏れられた神は、いずれも「神」であることには変わりませんが、ゲームでは同列に並びません。
そこには、神話を人物伝ではなく構造として扱う姿勢があります。
Light・Neutral・Dark の三系統
『真・女神転生III NOCTURNE』の約32種類の種族は、Light・Neutral・Darkの三系統に整理されます。
Light系には魔神・女神・破壊神・地母神・鬼神・大天使・龍神・軍神などが含まれ、善悪を単純化するのではなく、秩序や加護、攻撃性まで含めた力の向きでまとめているのが特徴です。
Neutralはその中間に位置し、Darkは対立や逸脱の側へ傾く。
三系統の見取り図があるからこそ、個別悪魔の性格差が埋もれません。
たとえば、同じ「神」でも、守護や統合を担うか、破壊や試練を担うかで配置が変わります。
ここで整理されているのは善悪の断定ではなく、神話的な役割がどの方向へ働くかという分類です。
Light系に並ぶ名前を眺めるだけでも、神聖さと武威、母性と破壊力がひとつの軸上で扱われているとわかります。
ポイントは3つです。
役割、位階、そして関係性です。
| 系統 | 位置づけ | 具体例 |
|---|---|---|
| Light | 秩序・加護・高位の神性を担う側 | 魔神、女神、破壊神、地母神、鬼神、大天使、龍神、軍神 |
| Neutral | 中間に置かれる調停的な側 | Neutralに属する諸種族 |
| Dark | 対立・逸脱・危険性を帯びる側 | Darkに属する諸種族 |
元ネタを知るとプレイが深くなる理由
種族表を神話の元ネタと重ねると、なぜこの神がLightで、あの神がDarkなのかが腑に落ちます。
原典での役割を知ったうえで眺めると、種族名は単なるゲーム用語ではなく、古い神話の秩序を短い記号に圧縮したものだとわかるからです。
原典の立場を手がかりにすると、悪魔同士の属性だけでなく、どの系統がどの神話圏の発想を背負っているかまで見えてきます。
実際、種族リストを神話系統ごとに整理したとき、分類が神話学的な役割分担を踏まえていると気づき、設計の周到さに感心しました。
以後は、見た目の強さだけでなく、原典での位格や働きを意識して種族表を見るようになりました。
すると、同じ神話の存在が別の種族に割り振られる理由も自然に理解できるようになります。
早見表に戻り、自分の好きな系統を入口にしてみてください。
プレイ体験は、そこからもう一段立体的になるでしょう。
西洋古典学を専攻し、ギリシャ・北欧・ケルト神話の原典講読を続ける神話研究家。比較神話学の視点で神話間の共通構造を分析する記事を得意とします。
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